「宮沢くんがなにを言いたいのか、よくわかんないんだけど……」

「……あ、そ?」

桜に冷たい一瞥をやって、宮沢は立ち止まる。

なにかと思ってぎくりとしたが、なんてことはない、職員室が目前にあった。

ノートを教員の机上に置くだけの用事は、速やかに完遂された。

職員室を出て桜はほっとする。

「……でさあ」

ほっとしたのも束の間、彼はまた喋りかけてきた。

桜はもう泣きそうな気分になる。

なんだか頭がぐらぐらする。もうほっといてくれ。

「あんたは、誰?」

率直な質問に対して、誤魔化す言葉も出てこない。

くらりと視界が揺れて、体から力が抜けた。

消えゆく意識の中で、最後に感じたのは、力強い腕と肩だった。