暫くの思案の末、彼は重い溜息を吐く。
「正直、適任がおらぬ。それはお前も分かるだろう? 兄上の嫡子は見目が良いだけ、父上の第二子である私は、あまり人望が無いしのう。父上の代の方々を棟梁に立てるにも、嫡流小松家の流れが途絶えてしまう。さすれば、平家と言仁親王との繋がりが薄れるだろう」
宗盛の言葉は正しかったが、重盛の嫡子維盛を『見目が良いだけ』とはなかなか辛辣な評価だ。
光源氏と例えられる美貌には息を忘れるほどだが、確かに宗盛の言葉は否定できない。
正直すぎる言葉に、通盛は最早表情を引きつらせて笑うしかなかった。
「だが、もしそのような状況に陥ったならば、維盛を棟梁に立てて我らが支えねばなるまい。それでも立ち行かなければ、偉大なる父上に泣きつきでもするか」
「分かりました」
──通盛にとっての宗盛は家族思いの良き従兄である一方、周囲にとっての宗盛は皮肉屋で高慢、棟梁の座を狙う者なのだ。
確かに彼は気位が高く、性格も捻くれていてあまりよろしくはないが、平家と子供を想う心は本物である。
「私はそろそろ行くぞ」
「引き留めしまって申し訳ありませぬ」
手を振って返事をした宗盛は父の部屋に消えていった。

