「時に、通盛。そなたはまだ身を固めぬのか」
「……なぜ、貴方までそれを」
またか、という思いだった。身体中の力が床に吸い取られていくようである。
げんなりしてため息を吐くと、宗盛は口元を緩ませて通盛の肩を親しげに叩く。
「さては、また教盛殿に言われたな」
「……今はまだその気にならぬのです」
「子供は良いぞ。子供の健やかな成長が何よりの喜びだ。私など子供のためなら命など惜しくないほどよ」
「はあ」
曖昧な返事をして、それ以上その話はするな、とばかりに通盛は首を振った。
宗盛の目は依然として笑っている。
通盛が彼に冷たい目を向けると、彼は誤魔化すように咳払いをして視線を庭の方に向けた。
通盛も釣られて庭に目をやると、目にも鮮やかな新緑が目に入った。
「愛する女人がおるのなら、早く娶るに越したことはない」
宗盛があまりに穏やかな声をしていたので、通盛は思わず童心に返ったように唇を尖らせた。
「……一向に振り向いてもらえませんが」
「はは、まだまだ魅力が足りぬようだな。重衡に教えを請うべきだな。ま、後悔せぬように」
その言葉に、通盛は小さく頷いた。

