あなたに捧ぐ潮風のうた



 俯きがちに廊下を歩んでいると、突如として向かい側から「久し振りだな、通盛」という馴染みのある声が聞こえた。

 通盛ははっとして振り返る。

 声を掛けてきた男は宗盛であった。

「宗盛殿ではございませぬか。いかがなさいましたか。貴方が我が父の屋敷にいらっしゃるとは珍しい」

「ああ。教盛殿にお話があってな」

 彼は前に小松家の屋敷で見かけた以来であった。

 彼は重盛の異母弟であり、清盛とその継室・時子との間に生まれた最初の息子である。

 つまり、彼は通盛の従兄弟だ。

 密かに〝悪童〟と言われていたほどに我が儘で悪餓鬼であった宗盛。

 通盛も少年だった頃は好奇心旺盛で、よく周囲の目を盗んで密かに遊んだものだった。

 だが、今は宗盛は立派な公卿。清盛を思わせる貫禄たるや、公卿に相応しい。

 ……その貫禄を際立たせる腹回りを教経が見れば、彼に軽蔑の目を向けそうであるが。