あなたに捧ぐ潮風のうた



 ふっと表情を和らげ、通盛は視線を床に落とした。

「……私とて分かっております。これは門脇家の嫡男として避けられぬことだ、と。いずれは私も妻を娶り、子をなす……」

 義務的な婚姻に虚しさを感じる。

 誰かが言っていた言葉があった。


 婚姻は義務、世継ぎを作るのも義務。
 だが、愛することまでは義務ではない。
 相手に嫌悪感を抱くことがなければ、その婚姻は実質的に成功である。
 夫婦の絆は子供が作り、夫婦の愛は側女が作る。


 だが、それは正しいのか。

 中宮と主上のように、愛し愛され、その末に子供を作ることが至上の喜びではないのか。

 血を分けた子供をこの世に産み落とす女を愛せないならば、それ以上の苦痛はない。