あなたに捧ぐ潮風のうた


「重盛の容体が悪化したと聞いた」

 広間にやって来た清盛入道は、今ばかりは落ち着かない子供のようだった。

「重盛はどこだ? 見舞いをしたい」

「兄上、なりません」

 通盛の父教盛が低い声音で言う。

 清盛が見舞いをすれば、重盛は床から起き上がらざるを得ない。

 今の清盛は重盛の負担になるだけなのだ。

 ぐっと一瞬鼻白んだ清盛は、夜叉のように目を吊り上げた恐ろしい顔をした。

 父教盛は目線を逸らさず、睨み返す。

 清盛が激怒するか──と思ったが、清盛は重盛の元に行こうとしていた身体の向きをおもむろに戻す。

 彼は部屋の上座に腰を下ろすと、周りの者たちがほっと安堵した。