あなたに捧ぐ潮風のうた



 誰もが動けないでいるなか、宗盛が素早く入り口へ走って行く。

「兄上」

 後ろからそっと声を掛けてきたのは教経であった。

 彼は無表情であったが、彼から滲み出る雰囲気はいつにもまして剣呑である。

「宗盛殿とお話しされましたか」

「いや」

 通盛は首を振った。

 父教盛がわざとらしい咳払いをすると、通盛も教経も口を噤まざるを得なかった。

 だが、門脇家だけではない。

 他の者たちも何やら視線を交わし合っている。

 もし、万が一にでも、重盛が阿弥陀仏の御元に行くことがあれば、次に平家を纏め上げるのは重盛の嫡男維盛であるはずだ。

 だが、宗盛には野心があるように見える。それが問題なのだ。

 そうでなくても、重盛には気を遣わせてしまうだろう。