あなたに捧ぐ潮風のうた



「兄上」

 声がした方を見ると、通盛の弟である教経が盆を片手に佇んでいた。

 教経は凛々しく整った、男らしい容貌をしている。背が高く、筋肉が程よく付き、肌は日々の武芸の鍛錬のために浅黒く焼けている。

 兄である通盛が柔だとすれば、弟である教経は剛というところだ。

「どうした、教経」

 通盛は笑顔で弟を迎え入れた。

「菖蒲の薬玉をお持ちしました」

 その返答に通盛は首を傾げた。

「どうしてお前がそのようなことをやっているんだ」

「……兄上。小間使いの躾はゆめゆめ手を抜かれぬように」

 教経は冷たい視線で菊王丸を射抜いた。

 菊王丸が持ってくるのを忘れたのだろう。

 菊王丸は顔も視線も恐ろしい教経にすっかり萎縮して通盛の陰に隠れてしまった。

 その二人の様子にため息をついた通盛は、「教経」と諌めるように弟の名前を呼んだ。

 教経は最後に菊王丸を一睨みしてから通盛に薬玉の乗った盆を渡して去っていく。