数日後、通盛ら数千の兵は、馬をも載せる大船に乗り込み、屋島を後にした。

 弓矢を持ち、刀と大鎧を身につけた平家軍は、十分に屋島で休んだためか英気が漲っており、追討軍の源氏を必ずや返り討ちにするという強い意志が込められていた。

 ──無事を祈ることしかできないというのはなんと歯がゆいことだろうか。

 小宰相は平家軍の背中が海の向こうに消えてもなお見つめ続けていた。

 敵は北陸を中心に勢力を伸ばして入京を果たし、平家追討の院宣を与えられた木曽義仲。そして、関東で力をつけている源頼朝という男も最近は動きがなく不気味である。

 平家は清盛の死から源氏に負け続けており、小宰相は信じていても不安に思わざるを得なかった。

 戻るように促す呉葉の言葉も耳に入らず、小宰相はいつまでも海辺で立ち尽くしていた。

 そんな二人の様子を疑問に思ったのか、義則も小宰相の元にやってきたものの、小宰相はその場所から動けなかった。

 その様子を見かねたのだろう、義則はふうとため息をつき、「姫様」と静かに語り出した。

「気をしっかりとお持ちください。あの方は何度も戦場に赴いて姫様の元に帰ってこられたではありませんか。海上での戦には源氏よりも慣れているでしょうし、それに今日は……」

 その言葉と同時に、昼間であるにも関わらず、辺りが徐々に暗くなる。次第には夜のように真っ暗になり、手元すら見えなくなった。

「ひ、姫様!」

 呉葉が思わずといった様子で小宰相にしがみついた。小宰相は戸惑いながら辺りを見渡した。

「母上、落ち着いてください。これは日食です。平家の方々は前から観察していて、これも戦で利用すると言っていました。相当よく練られた戦だと思われます」

 義則は二人を安心させるためだろうか、極めて冷静な口調でそう言った。