一度屋敷に戻った通盛は、着物を喪に合うものに整えた。菊王丸に手伝わせ、悲しみの色をした薄墨の着物を纏う。

 ぼんやりと滲んだ喪の着物を見つめていると、菊王丸が控えめに通盛に声をかけてきた。

「通盛様、重盛様の納棺の儀の刻が迫っています」

「……ああ、そうだな」

 急かされ、通盛は表情を消して重い腰を上げる。

 菊王丸を従え、磨き抜かれた廊下を進んだ。

 庭で臆面もなくさえずる美しい小鳥の姿を目で追いながら、通盛は生気の失せた顔つきで呟いた。

「……惜しい御方を亡くしたものだ……」

「……ええ」

 洟を啜る音が聞こえた。

 通盛は亡きひとに想いを馳せ、菊王丸は唇を噛み締めて涙を堪えた。

「さあ、参ろう」

「……はい」

 牛車に乗りこんだ通盛は、空に吸い込まれ消えていく小鳥たちを茫然を眺めた。

 永遠に非ざるひとが、永遠を望むのは過ぎた願いなのだろう。

 上一人から下万人に至るまで、死は平等に訪れる。

 限りあるからこその命、それは一時(いっとき)の儚い夢のごとき話だ。

 ──はたしてそれは命だけに限った話であろうか。