治承三年七月の終わり。

 盛子の喪が明け切らぬ内、一門の祈り儚くして、平重盛は四十三歳でこの世を去った。

 最期にその瞳が写したのは、輝くばかりの過去の栄光か、あるいは漸(ようや)く息子を顧みた偉大なる父か、それとも平家と時代の行く末か。

 最早、それは誰にも分からないことである。

 万人から愛される人柄であった重盛の死に、世間は嘆き悲しんだ。

 再び京の都が暗い霧に包まれた今この時も、平家一門が預かり知らぬ場所で、様々な者たちの思惑は交錯していた。