静かに時が流れること一月。

 摂関家、天皇家、平家一門らが相次いで病床の重盛を見舞い祈祷させたが、重盛の容体はとうとう急変し、みな覚悟を決めねばならぬ時がやってきたのだと悟った。

「父上……」

 平家一門が見守る中、床に伏せる重盛は、目の下を濃くして清盛を呼ぶ。

 到底、声など出せる容態では無いだろうに、最期の力を振り絞っているのだろうかと思うと皆胸が掴まれるような思いであった。

「どうした、重盛よ」

 重盛の細くなった喉から紡がれる声を聞かんとする清盛は、自身の耳を彼の口元に近付ける。

 その清盛の声は涙に掠れ、重盛同様に小さかった。

 我が子を案じるその表情は、朝廷に君臨した偉大なる権力者ではなく、ただの人の親にすぎない。

 重盛は宙を見つめ、死を感じさせない、とても穏やかな口ぶりで話し始めた。