「……本来ならば私がやらねばならぬこと……私は卑怯だ」
長く話したせいか重盛は軽く咳き込み、苦しげに眉間に皺を寄せて絞り出すように言う。
卑怯──その言葉に全ての気持ちが込められているのだろう。
通盛は彼の背中を摩りながら彼の独白を聞いていた。
「貴方は卑怯では──」
そこまで言って、通盛は言葉を詰まらせた。
そう簡単に、ない、と言ってしまって良いのだろうか。
平家棟梁の立場であった清盛と重盛にしか分からないことがあるはずだ。
軽々しく言葉を掛けられない。そのようなことを言う資格は通盛には無かった。
急に口を噤んだ通盛にも、重盛はただ穏やかにに「すまない、通盛。……ありがとう」と微笑んだ。
その時、部屋の入り口の方から「入道様、法皇様がお見えです」という取り次ぎの男の声が響いた。

