俺たちは悲しいくらい笑った。笑顔を作った。泣いたら悲しい現実しか見えなくなってしまうから。笑っていれば時間が止まって、ずっと一緒にいられるような気がしたから。

「ただいまー」

「おかえりー。ご飯、出来てるよ」

唯織の両親は笑っていた。いつも通り、優しい笑顔で帰ってきた俺たちを出迎えてくれた。一番辛いのは親である二人なんだって誰が決めたのか分からないけれど、俺は二人が俺より辛いと信じる事で笑う事が出来た。俺より苦しい人がいるというだけで、俺が悲しんでいられないと奮い立たせる事が出来た。
何も変わらない、家の中は何も変わらないいつも通りの幸せな時間が流れていた。もっと悲しんでも良いはずなのに、重い空気でも良いはずなのに。