睨まれはしたけれど、唯織より迫力無いなんて考えていた。唯織が睨むと息も出来なくなるくらい怖いからな。たぶん、睨まれた人は一瞬だけ本当に息が止まっていると思う。

「本当にバカ」

「知ってる」

自宅までの帰り道、これ以外の会話はなかった。何度も繰り返し、バカと言われて知ってると返していた。俺と唯織の中にある悲しみを消す方法が思い付いた無関係な言葉を口にする以外、思い付かなかったから。
どうしてぎりぎりになって両思いになってしまったのか、もう少し早くても良かったんじゃないか。思い出を作れないのならいっそのこと、両思いにならない方が良かったんじゃないか。考え出せば切りがなかった。でも、どれだけ願っても彼女の寿命が伸びたり病気が治たりする訳じゃない。