まぐれではあるけれど、私に負けたのに凄い、やった、などと負けた事を気にしていないような言葉ばかりが彼の声で聞こえてくる。
もう嫌、下ろしてくれないかなと落ち着くのを待っていると深く被っていたはずの帽子が床に落ちた。やばいと焦った時にはもう遅かった。私の正体はこの場にいる全ての人にバレてしまった。
彼の事を好きなのか、私の正体がバレた瞬間、観覧場所から睨んでくる女子。うちの高校でも一の強さを争う彼を私が抑え込んだのかと騒ぎ出す部員と監督。もうダメだ、校則で禁止しているとは言えどまた虐められると思いっきり目を瞑った。
目立っても虐められるからダメ。目立たないようにしても目を付けられるからダメ。どうしたら良いの。

「ねぇ！もっかい！もっかいやろ！」

「ごめんなさい・・・、下ろして・・・」