「三郎さんが事故に遭った日、三郎さんと同じ部屋の利用者の方が家族にネックレスをプレゼントしていたそうです。それを見て、三郎さんは花凛さんに言った約束を思い出したのではないでしょうか」

大野花凛の目に、怒りや戸惑いとは違う感情が現れ始める。藍はそのまま続けた。

「三郎さんは、死ぬ間際まで記憶を失うことがありませんでした。亡くなる直前、三郎さんは「ごめんね」と言い涙を流して亡くなったそうです。認知症になって迷惑をかけてしまったこと、ネックレスを花凛さんに渡せないこと、それを悔やんで謝ったのではないでしょうか」

「…………」

大野花凛はうつむき、ゆっくりと立ち上がる。そしてネックレスを手にしたまま廊下へと歩いて行った。誰も止めたりしない。ライブに行くことはないとわかっているからだ。

廊下から部屋の中にまで、大野花凛の泣き声が響く。大野和美の目からまた涙がこぼれた。

「……ありがとうございます。……ありがとう……」