認知症について教えてもらいながら、藍と大河は大野三郎が暮らしていた部屋へと案内してもらう。

三郎が暮らしていた部屋は、相部屋だった。三つベッドが置かれている。

「ここで三郎さんは暮らしていたんですね……」

大野三郎のベッドを見つめ、大河が呟く。ベッドの近くに置かれた床頭台の上には大野和美と大野花凛の写真がいくつも並べられていた。

「あの日は、同じ部屋の斎藤さんのご家族がこの部屋にいました。斎藤さんのご家族がこの部屋に入った時には大野さんはいたそうです。しかし、気がついたらいなかったと……」

職員は暗い表情で言う。施設に問われる責任は重いものだろう。藍の表情も暗くなった。

「おじいちゃ〜ん！遊びに来たよ〜」

その時、ニットシャツにフレアスカートを履いた女性が部屋に入ってくる。そして、職員や藍たちを見て「こんにちは！」と明るく挨拶をした。その胸元には、ピンクの石のついたネックレスが揺れている。