「ありがとう、柊斗」

少しだけ口角を上げてそう告げれば、〝それでいいんだよ〟と言いたげな柊斗が嬉しそうに笑ってくれた。

柊斗が買ってきてくれた大好物のチョコバナナは、とても甘くて頰が落ちそうなほど美味しい。毎回口にする度に思うけれど、このパリパリのチョコレートと熟されたバナナの組み合わせが本当に最高だ。

チョコバナナを片手に、人とぶつかってしまわないように上手く避けながら今度こそあかりたちの待つ場所を目指す。

焼きそばなどが入っている袋は、ありがたいことに、チョコバナナを食べている間だけ柊斗が持ってくれることになった。

ちらりと左腕に付けていた腕時計に目をやって時刻を確認すれば、今は十九時三十分過ぎ。この調子でいけば、あと五分ほどで辿り着けそうだなあと思い、片手であかりに簡単な連絡を入れた。

「よし、あかりに連絡完了」
「ありがとう、凪。二人ともお腹空かせて待ってるだろうなあ」

その言葉に想像できたのは、お腹が空いたといいながらグダグタと話しているあかりと悠真くんの姿。……少しだけ、笑みがこぼれる。

そして柊斗も同じことを考えていたのか、見上げれば、私と同じように顔を綻ばせていた。

「……あ、そういえば」

その時、ふと、柊斗が思い出したように口を開く。この流れからいくとあかりか悠真くん関連のことかなあと思っていると、柊斗の口から飛び出したのは思いもよらないことだった。

「いや、俺の妹も確か、チョコバナナが好きだったような気がするなあって。今更思い出したよ」

なんでもないことのようにさらっと告げた柊斗だけれど、私は驚きを隠せず目を見開き、食い気味に言葉を放つ。

「え、柊斗、妹いたの?」
「あれ?話したことなかったっけ。四つ違いの妹がいるよ。今十二歳。まだ誕生日は来てないから中一かな」
「聞いてないよ……。そうだったんだね。ちょっと意外かも。柊斗って、とても穏やかでのびのびしてるし、一人っ子って気がしてたから」

性格からして柊斗にまさか妹がいたなんて想像もしていなかったし、それっぽい話も全く聞いたことがなかったからてっきり一人っ子だと思っていた。

……そういえば。ここで私はあることに気付く。

「柊斗から家族の話聞くの、初めてだよね」

そう、私たちは四月から今に至るまで毎週のように顔を合わせ、それ故に話す機会も多くあったと思うが、私は柊斗から自分の家族に関する話を聞いたことがない。

あかりや悠真くんは、連休に家族で出かけた場所であったり、両親に怒られたことであったり、そういった話をすることも多々あった。