「来ちゃった……」

 申し訳無さそうに笑うわたしを真は抱きしめる。懐かしい香りに安心感を覚える。

「愁ちゃんのこと迎えに行くために、オレ仕事頑張りよるよ!」
真はごきげんで話す。…と、包帯に気付く。
「これ、どうしたん?」
真に嘘はつけない。わたしは、精神科に通っていること、自殺未遂を繰り返していること、リスカをした原因まで事細かく話した。

「愁ちゃんは悪くないよ!でも、こんなことはしちゃダメだ‼自分の腕に謝んなさい!」

 わたしは、似たような境遇の真の言う事は、ある程度素直に聞いた。
「ごめんなさい。」
まだ、訳もわからないまま謝る。

「愁ちゃんだー!」
真はギュッとわたしを抱きしめ、
「ずっと会いたかった。」
と囁いた。

 わたしはその夜から真の家に居ることになった。
 バイトは続けていたので、真の家の方が近くて助かった。真はわたしと別れている間のことを話したがった。
 違う彼女がいた事、わたしの彼氏だった涼介のこと、わたしの自殺未遂のこと、精神科で、思ったことを書くように言われて書き出した詩のこと…。

 いろいろ話していると、あっという間に時間がたった。

 ある日、わたしのバイト先に、新田(にった)君という男の子が入った。
 新田君はわたしの4つ上だった。わたしのバイト先は、更衣室のない、小さなスーパーだった。

 入って数日…ロッカー前で、私服に着替えていたわたしの胸をいきなり揉んできた。
「何すんの!」
怒るわたしに、新田は、いきなりキスをした。
「相沢さんのこと、入ったときから気になってたんだよね。」
…どういう意味でだよ……
と思いながら、制服から手を抜こうともがく。…しかし、なかなか手が抜けない。
 新田は、慣れた手つきでブラを外し、下着の中に手を入れる。

 わたしは途中で抵抗するのを止めた。馬鹿らしくなったのだ。
…どこまで行ってもわたしはこんなもんか…。
真に悪いなぁ……そう思いながら関係を持った。

このことは真に言えなかった。

 数日後、真がキレていた。わたしの枕元にノートがあり、それを開くと、新田と関係を持ったことが、赤裸々に書かれていた。わたしの記憶にないので、
「なにこれ!」
…と言うと、真は静かに聞いてきた。
「これ、本当か?」
ドスのきいた声に、少し恐怖を感じながら
「……うん……」
と言うと、真は
「新田って誰か?殺しに行っちゃるよ!」

 その日、わたしはバイトに行った。
 すると、真が仕事上がりに後輩を引き連れてやって来た。
「新田ってどいつか?」
 幸いなことに、新田はその日休みだった。
「今日休みやけん、もう帰って!」
「本当やろうの?」
「本当やけ…店に迷惑かかるけ…。」
なんとか真をなだめて、帰らせた。

 しばらくして、
「相沢さんと新田君は名前で呼び合ったりしているんじゃないか?」
と、店長に言われた。

「そんなことした事ありません!」
と、抗議したが、
「店の風紀が乱れるから…。」
と、解雇された。

 真は、
「しばらく愁はバイトせんでいいよ!」
と言ってくれた。

 数日後、行きつけのBarに連れて行ってくれた。
 後輩の連絡先も教えて、
「オレに連絡つかん時は聞いたらわかるき!」
と言ってくれた。

「愁の病気についても、本読んだりして勉強しよるんね!」
とか、
「愁のこと思って、オレも詩書いてみた」
と、数枚の紙を見せてくれた。


 真は、今までの人生で、わたしを最高に愛してくれた人かもしれない。今も心の中に残り続ける暖かい記憶だ。