花と黒猫の輪舞曲

ぎゅっと固く固く目を瞑る。私は今、どうなっているのか知るのが怖かった。

固く目を瞑っているから私の回りが明るいのか暗いのかも分からない。ただひとつ分かるのは、私は落ちていると言う事だけ。

水溜まりに落ちたのなんて初めてだし、溺れたのだって初めてだ。ましてや水溜まりがこんなに深いなんて。

いやその前に水溜まりに落ちるなんて、何処かの国のアリスでもあるまいし現実にそんなファンタジーな事があって良いのか。

確かに漫画や夢のある話は好きだけれど、どちらかと言うと私は現実主義者だ。

だけど、私が体験している今が夢なんてものじゃないなんて私自身が一番分かってる。

なんで水溜まりに落ちるなんて非現実的な事が起こったのか分からないまま私は溺れて死んでしまうのかな。

「――っ!」

息が苦しい。
思わず鼻を押さえていた手を離すと口から空気が抜けてゴポッと音が聞こえた。

『ここだよ』

え?幻聴でなかったら確かに私の耳はその音の様な声を拾い、その声はまだ少し高い少年の様だった。

そう、夢で聞いた様な。

その瞬間にまるで地に足が着いた様な感覚が全身を襲い、ヒヤリとした空気が体を包んだ。