花と黒猫の輪舞曲

何故今思い出したのか。それは昔好きだった絵本の始まりのシーンと今が似ているからなのかもしれない。

確か、鍵は言葉。

「…君と、約束を」

フッと頭に言葉が浮かんだかと思うとまるで誰かに意識を持っていかれたかの様にそれは口をついて、勝手に声となって吐き出された。

何いまの!
驚きで無意識の内に口を手で覆えば次の瞬間はガクリと足から力が抜ける。

「―きゃっ!」

ヤバイ!倒れる!
小さな悲鳴と一緒になんとか無様にコケるのを防ごうと手を前にして腕を突っ張ろうとしたけれど、有り得ない事が起こった。

つぷ。

音にするならそんな感じだろう。私の指先が水溜まりの先に消えている。文字通り、埋まる様に。

何が、何が起こったのか。頭で理解する前に体は重力に逆らえず、そのまま水溜まりへ。

普通なら小さな水溜まりだろうがパチャリと多少は音がなってもおかしくはないのに私の体は飲み込まれる様に見事に音無くその場所から、消えた。

最後に見えたのは振り向きかけた智の横顔と、空に架る虹。

「…ねぇ、さち俺は―あれ、さち?」

残ったのは小さな水の波紋。