花と黒猫の輪舞曲

そう言いつつも智の顔は不機嫌だ。ついもう一度口の中で「ごめん」と呟く。いつも気になってた、どうしてそんなに夢の事を気にするのか。

「智、どうして夢の話しすると怒ったみたいな顔するの?」

理由が分からない。
だからいつだってこう聞くけれど、今まではぐらかされてきた。けれど今日は違うみたいだ。

「さちは、その男の子が好きなの?」

「…何言ってるの智?」

何だか、今日の智はおかしい。こんな事今まで一度だって言った事ないのに。

「いつもさちは楽しそうにその話しをしていたから、僕から離れていつか男の子の所に行っちゃうんじゃないかと思って」

男の子の所に行っちゃう。その言葉にドキリと心臓が跳ねた。今朝見た夢の内容まで智は知らない筈なのに、まるで何か確信を持った様にそう言う彼の言葉に自然と繋いだ手に力がこもる。

「さち?」

「や、やだなー!智ったら夢の話しなのにそんなに真剣になって!あ、見てみて虹だよ!綺麗だねー」

バッと指を差した空には確かに虹。

「さち、はぐらかさないでよ」

「はぐらかしてなんかないよ。だってあれは夢の話しなんだから、私が何処かに行くなんて…」

有り得ない。
そう言ってしまえば良いのに最後のその言葉が出て来なかった。