花と黒猫の輪舞曲

プクッと頬を膨らませてうっすらと桃色に顔を染めた智はそう言うとギュと空いた私の手を握る。

年頃の男女がこんなこと、と思うかも知れないけれど智とは昔からこうだし彼とは同い年と言っても弟の様に感じているから私は違和感なんて何もなかった。




「あ、雨上がったんだ」

地面にはいくつかの大きな水溜まり。今朝は結構激しく降っていたのに、見上げた空は夕焼け特有の綺麗なオレンジ色に染まっていた。

「ね、さち。さっき言ってた考え事ってもしかして例の夢こと?」

「え!何で分かったの!」

いつもの帰り道。たわいもない話しをしながら夕日で伸びた影を見て繋がった手をブラブラさせていたとき、いきなり智がそんな事を聞いてきた。

「だって、いつものさちだったら悩み事があるなら聞かなくても俺に何でも言ってたのに、今日は言わなかったから」

「…あ」

そう言われて初めて気付いた。言わなかったのはきっと無意識だったのだろう。だって智は何故か私が男の子の夢の話しをすればいつも機嫌を損ねてしまうから。

「…ごめん」

「謝って欲しい訳じゃないよ…」