花と黒猫の輪舞曲

ああ、なんでか知らないけれど水の中から出られたんだ。そう無意識に感じ取れば私の口は本能の様に酸素を求める。

「―ぐっ!ごほっごほっ!」

肺が痛いなんて思ったのは初めてだ。体をまるめて地面に膝を着ければ『きっと首を絞められたときとかもこんな感じなのだろうか』とどうでも良い事が頭を霞めた。

「はぁっ…」

取り合えず、生きてる。

どうして水の中から出られたのかなんて分からないけれど、全身ずぶ濡れできっと私の姿は酷いに違いないけど、取り合えず生きてる。

落ち着いてきた呼吸に「良かったぁ」と安堵の声を漏らそうと思ったが喉に感じた引き釣った様な違和感。

―声が、出ない?

そんなまさか。と下を向いていた顔を上げて喉元に触れ様としたときに、やっと気付いた。

男の、子?

黒髪に、パジャマの様な格好をした男の子が居る。私の目の前に。その子は四つん這いで私と向き合う体制にあった。

「うそ?」声が出たならきっと私はこう言っていただろう。だけど残念な事に口はパクパクと動くばかりで音を発する事はない。自分の手が震えるのが分かる。きっと目も見開いている事だろう。だって私知ってる。この男の子を。ずっと前から、知ってる。

夢の、あの子だ。

そう思った途端に不思議と体が勝手に動いた。