冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~

彩実本人は自分の外見にそれほど興味がなく、子どものころから大好きな父の力になろうと一生懸命勉強し、それ以外のことは二の次という生活を続けている。

二十五歳になった今も恋愛経験のひとつもなく、ひたすら仕事に励む日々だ。

そんな彼女に突然賢一から言い渡された見合いは、お見合いの話自体、先方に受け入れてもらえないだろうという彩実の甘い目論見は外れ、いよいよ当日を迎えてしまった。

直也も麻実子も如月家の絶対的な支配者である賢一には逆らえず、彩実も見合いを受け入れるよりほかなかった。

もしも見合いを断れば、モデルハウスに小関家具の商品は採用しないと賢一に断言されてしまったのだ。

順調に進んでいるモデルハウスの計画がとん挫すれば、今まで力を尽くして頑張ってきたメンバー達の落胆は相当なものだろう。

それだけはなにがなんでも避けたいと、彩実は仕方なくお見合いの場に出向いたのだが。

指定された白石ホテルに着いたとき、直也から思いがけないことを聞かされた。

「え、ちょっと待って。これって、もともとは姉さんが断ったお見合いなの?」

ホテルのロビーで立ち止まり、彩実は大きな声をあげた。

振袖を着せられたせいで歩きづらく、ただでさえ面倒だというのに、さらに見合いを断りたくなるようなことを聞かされれば当然だ。

「今日のお相手の白石さんと姉さんがお見合いしたってこと?」

信じられないとばかりに詰め寄る彩実に、直也は気まずそうな表情を浮かべた。

「実はそうなんだ。二か月ほど前、会長が白石家に話を持ち込んで一席設けてもらったんだが……」

直也はハンカチで額に浮かんだ汗を拭きながら、言いづらそうに言葉を続けた。

その後ろに立っている麻実子を見れば、肩をすくめ苦笑している。