冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~

諒太が言った通り、着替えを終えた彩実を白石家の車と運転手が待っていた。

普段なら電車で家まで帰るのだが、長時間に及んだ衣装合わせで心身ともにくたくたで、ありがたく送ってもらうことにした。

国産の高級車として知られる車の乗り心地は快適で、後部座席に体を沈めた途端眠気に襲われたが、ふと爽やかなシトラス系の香りを感じハッと目が覚めた。

「この香り……」

「あ、申し訳ございません、日中、副社長をお乗せしましたので、香りが残っていたのかもしれません。窓を開けましょうか」

運転席から振り返った専属の運転手、今江が申し訳なさそうに頭を下げる。

ホテルの玄関で待っていた今江をひと目見たときからその優しそうな立ち姿に彩実は安心したのだが、第一印象通りの温厚な口ぶりに、彩実の顔に、自然と笑みが浮かんだ。

「大丈夫です。とてもいい香りですね」

彩実の言葉に今江はホッとしたようにうなずき、車を発車させた。

「この香りは副社長お気に入りの香水だそうですが、ここぞというときに身にまとってらっしゃいます。あ、ですが、お帰りになられてすぐにシャワーを浴びて着替えられたと思います。お客様と接する仕事なので、なるべく余分な香りは残さないように注意されていますから」

今江の言葉に、彩実は納得した。

衣装合わせで会ったとき、諒太からはなんの香りもしなかったのだ。

「ここぞっていうとき……。ということは、日中出かけられたのも大切な用事だったということですね」

後部座席から次第に遠ざかる白石ホテルを見ながら何気なくつぶやいた彩実に、今江は無言のまま、柔らかな表情を崩さない。

「あ、すみません。副社長のスケジュールを簡単に話せるわけないですよね」

彩実は慌てて頭を下げた。

簡単に社長や副社長のスケジュールを公にできないことを、彩実もよく知っている。