冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~

晴香は男が彩実に誘惑されたと信じこみ、その日以来離れに引きこもった。

もちろん、彩実がなにを言っても聞く耳を持たず、会おうともしなかった。

たまに母屋ですれ違っても、そこに彩実の存在などないとばかりに無視し続けた。

晴香の恋人だった男はそれ以来如月家に顔を出すことはない。

すべての事情を知った咲也がある程度のお金を使って男の勤務先とやり取りをし、海外勤務に就かせたそうだ。

一見栄転にも見える海外勤務だが、咲也と上層部との間で二度と日本勤務はさせないという約束を取り付けたと聞いて、彩実は無理矢理男に押し倒されたという、吐き気を覚える記憶をしまい込むことにした。

それに、ただでさえショックを受けている晴香がさらに傷つく姿も見たくなかったのだ。

これからも、事実を伝えるつもりはない。

とはいえ、やはり今でも男のことを考えただけで彩実は気分が悪くなり、鳥肌がたつ。

「晴香さんから奪い取ったその男性とも結局うまくいかなかったんだろう? そりゃそうだよな。姉の恋人を誘惑して奪うような女の魅力なんてたかが知れてる。たしかに君は美しくて男性なら誰もが手に入れたくなる見た目だが。中身が最低ならそんな魅力はいずれ剥がれ落ちて、後に残るのは、頭が空っぽの意地の悪いお嬢様。捨てられるのも当然だ」

思い出したくもない過去を思い出して気分が悪い彩実に、さらに傷つく言葉が落とされた。

「ひどい……」

諒太はどこまで彩実を傷つけようとするのか。

歪んだ表情と冷たい口調で彩実を責め立てる諒太を前に、彩実は立ち尽くす。

諒太がここまで彩実にきつい言葉を投げつけるのは、そう信じるだけのことを晴香が言ったからに違いないが、だからといって、ここまで言われる筋合いはない。