冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~

独身者であれば、一本を将来の配偶者のために。

文字盤の色は濃紺で、シンプルな三針は深紅。

そのはっきりとしたコントラストはとても鮮やかで、おまけに製作を手掛けたのは精密機器メーカーとしても有名な高級腕時計ブランド。

白石家の者しか持つことのできないその腕時計は、かなりの話題となった。

当時大学の卒業を間近に控えていた彩実も、テレビのワイドショーで連日紹介されていたその腕時計を何度か目にしていた。

「06だ……」

ほんの一瞬諒太の手首から見えた腕時計を目で追いながら、彩実は思わずつぶやいた。

その声はあまりにも小さくて誰の耳にも届かなかったが、腕時計を追う彩実の視線に気づいた諒太は、あからさまに顔をしかめた。

「俺よりも小関家具の後継者と結婚したいと言っておきながら、やっぱり君も白石家の人間でなければ持てないこの時計がほしいのか? 政略結婚は嫌だとかどうせなら気心が知れた男と結婚したいと言うのは簡単だ。だけど、君は晴香さんが言っていたとおり、なにもかもを欲しがる強欲な女なんだな」

「え?」

諒太のあざける声に、彩実は突然なにを言い出すのかとかぶりを振った。

「違います……欲しがってません。姉がなにを言ったのかはわかりませんが、それは違います」

晴香は諒太とのお見合いの席でいったいどれほどの嘘を言ったんだと、彩実はうんざりする。

「晴香さんが付き合っていた恋人は、一流商社に勤務するエリートだったらしいな。温厚で真面目。英語とフランス語が得意で、海外勤務も近かったそうじゃないか。その日に備えて晴香さんは彼からフランス語を教わっていたらしいが」

嘲りを宿した目で咎めるように言われ、彩実は息をのんだ。

「如月家当主の正当な孫である晴香さんがそれほど羨ましかったのか? それに、非の打ちどころのないその男性をどうしても自分のものにしたかったのか?」