彩実はくぐもった声と視線で、話を進めるように促した。
諒太はいら立ちを隠さず話を続けた。
「晴香さんとお兄さんの咲也君の実の母親は亡くなっているんだろう。だから、今のご両親は昔から君ばかりをかわいがっていて、寂しかったとも聞いたぞ」
「まあ、たしかにそうかもしれません」
あながち間違いでもないので、彩実はとりあえずうなずいたが、晴香が寂しかったというのは諒太に同情してもらうための嘘だろうと判断する。
「おまけに君は、これまでにも晴香さんの恋人を奪ったことがあるらしいな」
その言葉に、彩実の体が小さく揺れた。
「……図星か。だったら話が早い。晴香さんが結婚を考えるほど愛していた恋人を誘惑して奪い取ったそうだな。ふたりが抱き合っているところを目撃した晴香さんの気持ちを考えたことがあるか? そのショックが大きくてそれ以来離れに引きこもっているんだろう。どれだけ君は身勝手なんだ?」
よほどそのことが気に入らないのだろう、言い終えた後、諒太の呼吸は少し乱れていた。
その合間も彩実を睨みつけ、言い訳できるものならしてみろとでもいうように意地の悪い笑みを浮かべている。
彩実はこみ上げる思いをこらえるように天井を見上げ、ため息を吐いた。
「たしかに、姉には恋人がいました。姉より五歳年上のフランス語の家庭教師でした。そして、私のせいで姉がその家庭教師と別れたのも事実です」
「……やっぱりそうか」
「はい。ですが、だからといって私が彼を奪ったというのは間違いです」
抑揚のない声で話す彩実に、諒太はさらにむかむかする。

