冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~

「あ、すみません。ドレスには慣れてなくて」

いい印象を持っていない女性に腕の中にいられるのは嫌だろうと思い、彩実は慌てて諒太から離れようとするが、背中に回されたままの諒太の手に力が入り、動けない。

「慣れてないのはドレスよりその靴じゃないのか? 捻挫でもされると面倒だからじっとしてろ」

「あ……でも」

面倒だと言いつつ彩実の体を支える諒太に、彩実は複雑な視線を向けた。

決して機嫌がいいわけじゃないのはその声の低さからよくわかり、だったら離してほしいのだが。

諒太の胸に置いた手を無理矢理離そうともせず、彩実の背に回した手を腰の上で組み、心なしか引き寄せられたような気がした。

ただでさえ間近にあった諒太の顔がさらに近づき、心臓がどうしようもなくうるさい。

「えっと。私」

「なんだ?」

なにか話さないと間が持たないと思い、彩実はつい口を開いたが、返ってきたのはぞんざいな返事。

すぐにでも逃げ出したくなる鋭い声音だが、見つめ合った諒太の瞳が普段よりも柔らかな光を含んでいるような気がして、つい口を開いた。、

「あの、このドレスが一番似合ってるような気がするんです。だから、これに決めたいんですけど」

諒太のドレスの好みがわからず、彩実はおずおずと口を開いた。

どれだけ試着しても気に入らないのなら、自分が決めてもいいのではないかと続けて言ってしまいそうになったが、躊躇している間に意外な答えが返ってきた。

「ああ。このドレスでいいだろう。最近フランスで人気の若手デザイナーの作品だ」

「フランスの?」

「ああ。うちのホテルと取引のある商社おすすめのデザイナーらしい」

淡々と話しながら彩実の体を見下ろし、諒太は目を細めた。

これまでになく棘のない声と落ち着いた表情を見ると、彩実のドレスを気に入っているように見える。