冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~

彩実はいちど唇をかみしめ、気持ちを切り替えた。

「飯島さん、あの、私このドレスが気に入ったので——」

これに決めますと続けようとした、そのとき。

それまで無言のまま彩実を見つめていた諒太がつかつかと彩実の傍らに近づくと、そのまま彼女の目の前に立った。

「あ、あの? なんでしょう」

いきなりのことに、彩実の声が裏返った。

彫刻のように整った諒太の顔を間近にして無意識に後ずさるが、慣れないハイヒールのせいでバランスが崩れた。

「あっ」

慣れていないのはハイヒールだけでなく、もちろんウェディングドレスもそうだ。

彩実は足元に広がるトレーンを踏まないように不自然な格好で体を揺らし、両手は大きく空をきった。

「如月様、あぶないっ」

慌てる飯島の声が部屋に響く中、彩実の体が背後に倒れていく。

「おいっ」

今にも床に倒れこみそうになったとき、諒太の手がすっと伸び、彩実の体を支えた。

「大丈夫か?」

「あっだ、大丈夫……です」

「気をつけろ」

諒太は不愛想な声でつぶやくと、彩実の体をゆっくりと抱き起した。

彩実は慣れないハイヒールでどうにか立つが、やはり倒れそうになったショックが残っているようで足に力が入らない。

鼓動も激しく鳴っていて、息も荒い。

彩実は背中に回された諒太の腕にすがるように体重を預け、両手を目の前の諒太の胸に置いた。

綺麗にプレスされたグレーのシャツはとても手触りがよく、紺色のネクタイも上品な艶があり、どれもこれも高級ホテルの副社長にはぴったりだ。

それに、スーツがよく似合っている。

まだスーツ姿しか見たことはないが、普段どこで洋服を買うのか、それにどんなスタイルを好むのか、ふと気になった。

「おい、大丈夫なのか? 足でも痛めたのか?」

身じろぎひとつせず諒太のネクタイを見つめる彩実に、諒太が探るように声をかけた。