冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~

『副社長って三橋さんが身勝手なことばかり繰り返しても静観していただけだったのに、彩実さんが階段から落ちそうになって、おまけに逆切れして文句を言った途端、さっさと地方に異動させたんですよ。本当、彩実さんは愛されてますよね。うらやましい』

飯島のからかう声に彩実は顔を赤くしうつむいたが、それがうれしくて密かに笑みを浮かべていた。

そんな意地悪な自分を、そのときばかりは「仕方ない」と認めながら。

そして。

忍や彩実たちがフランスに行くことを知った晴香が自分ひとりで留守番をすることに納得するわけもなく。

『もちろん私も行くわよ』

フランス語でそう言って、忍を苦笑させた。

あの後彩実への誤解を泣きながら謝った彼女は、二年後忍とともに帰国すると同時に結婚式を挙げる予定で、フランス語だけでなく小関家具についても学び始めている。

「いらっしゃいませ。中に入っていただいて、ゆっくりとご覧ください」

彩実はモデルハウスを見学に訪れた客にパンフレットを渡した。

「あ、もしかしたら白石ホテルの御曹司と結婚した、えっと……彩実さん? テレビで見るよりもかわいらしいのね」

「あは、ありがとうございます」

マスコミの力はやっぱりすごいと思いながら、彩実はモデルハウスを見上げた。

この仕事に携わったおかげで見合いを強制されて諒太と再会し、そして愛され、今は幸せに楽しく暮らしている。

冬の日差しが心地いい展示場で、彩実は幸せをかみしめた。

「今何時だ? そろそろ俺は工房に戻る。フランスに行くまでに終わらせる仕事がかなり多いんだ。うちの商品のことでお客様から質問があったら、職人を何人か残していくから、彼らに聞いてもらえるか?」

申し訳なさそう言った忍に、彩実は「わかった。気をつけて帰ってね」と言いながら腕時計で時間を確認した。