冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~

「な、なにを偉そうなことを……。彩実に関係ないでしょう? 忍君がいいっていってくれたらそれでいいじゃない。ねえ、忍君」

彩実の言葉に激昂した晴香は、すがるように忍の顔を覗き込んだ。

「ねえ、ついていっていいんでしょう? 私と結婚するって、言ってくれたから信じてるのに」

忍は一瞬切なげな表情を浮かべたが、すぐに口元を引き締めた。

「結婚は、俺がフランスから帰ってきてからのほうがいいと思う。向こうでは勉強が忙しくて晴香さんのことまで気が回らないと思うし、彩実の言う通り、フランス語ができなくて困るのは晴香さんだよ」

冷静に話す忍に、晴香は黙り込んだ。

優しく人当たりのいい忍だが、その内面はかなり頑固で熱い。

一度決めたことは滅多なことでは覆さないのだ。

そんな忍の性格を晴香もわかっているのか、しばらく考えた後、彩実に視線を向けた。

「で、彩実は私をどうしたいの? 今からフランス語のレッスンでもしてくれるの?」

晴香の弱々しい声に、彩実の胸は痛んだ。

「うん。思い出したくないだろうけど、姉さんも二年前までフランス語の勉強をしていたから、ある程度は話せるだろうし、今から先生を探して勉強すれば二年も待たずにフランスに行けると思う。だから、レベルを知るために、前に忍君のために用意した親戚が話すフランス語を聴いてどの程度わかるか教えてほしいの。私と忍君が姉さんにだまっていたことは、それから話すから」

彩実はそこでいったん言葉を切ると、晴香の様子を確認するように見つめ、ふっと息を吐き出した。

「私にとってはできれば二度と思い出したくないことだから、少し気持ちを落ち着けてから話したいの。だから少し時間が欲しいの……」

二年前の出来事を話すのには勇気がいる。

晴香がどう受け止めるのかが気になるのはもちろん、彩実にとっては思い出したくもないつらい出来事なのだ。

話したほうがいいと頭ではわかっていても、体は強張り声も震える。

時間稼ぎの意味もあるが、まずは晴香のフランス行きの件を話し合って、それから二年前の話をしようと思ったのだ。

その間に気持ちを鎮めなければと、彩実は深く息を吐き出した。

「彩実?」

彩実の苦し気な表情を、晴香が怪訝そうに見つめる。