冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~

「大丈夫だ。あのときと今は状況が違う。晴香さんには俺がついてる。だから安心して」

忍は落ち着いた表情でそう言って、彩実を安心させるようににっこりと笑った。

「そう言われても……」

「ちょっと、ふたりでなにをわけのわからないことを話してるの? あのことってなんのことなのよ」

彩実と忍がふたりにしかわからない話を始めたのが気に入らないのか、晴香は忍の腕に再びしがみつき大声を上げた。

「彩実、また私から大切なひとを横取りしようとしてるのかもしれないけど、ダメよ。忍君は絶対に渡さないから。一緒にフランスにも行くし、絶対に離れない」

興奮したのか足をじたばたさせて暴れる晴香を、忍が抱き寄せた。

「大丈夫、大丈夫。彩実は晴香さんからなにも奪わないから、心配しなくていい。落ち着いて」

まるで呪文を唱えるように、忍は晴香の耳元に優しくささやいた。

これが初めてではないのか、慣れたように晴香の長い髪を梳きながら「大丈夫」と繰り返している。

忍の胸に顔を埋めている晴香も次第に落ち着いてきたのか、荒々しかった呼吸が穏やかになっていく。

「もしかして、ふたりは本当に……?」

彩実は呆然とつぶやいた。

忍と晴香は、本当に結婚するのだろうか。

それに、フランスに晴香がついていくと言い張っているのは、彼女ひとりのわがままではなく、忍も納得していることなのだろうか……。

目を丸くしている彩実に、忍は照れたように小さくうなずいた。

「え……うそ。いつの間に……」

忍の手は晴香の頭を優しく撫で続け、よく見れば、晴香の手は忍の背中を力いっぱい抱きしめている。

「そうだったんだ」

彩実は脱力し、バタンと倒れこむようにソファの背に体を預けた。

彩実に対する嫌がらせでもなんでもなく、晴香は本当に忍が好きなのだ。

そして、忍も晴香を愛している。

「びっくりした……でも、だったら」

忍が言う通り、事実を晴香に伝えたほうがいいのかもしれないと思い始めた。

けれどやはり、長い間隠していた事実を伝えるのには勇気がいる。

頭では今こそその勇気を出すときだとわかっていても、どうしても晴香の反応が心配で、二の足を踏んでしまうのだ。

「彩実」

耳元に諒太の声が響き、彩実はぼんやりと顔を向けた。

そして、いつの間にか腰に回されていた諒太の手に、強い力で引き寄せられた。