冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~

「どうして? どうして彩実が苦しむの? 私から恋人を奪ったのは彩実でしょう? お姉ちゃんお姉ちゃんって言って私を慕う振りをしながら、あの人を誘惑して……。悩んで苦しんだのは私のほうなんだから」

「姉さん……」

晴香ははあはあと息を吐き、顔を真っ赤にしながら唇をかみしめた。

負の感情のすべてを乗せたような凄みのある表情をまっすぐ向けられ、彩実は息をのんだ。

二年前のあの日以来、晴香は彩実を避け続けまともに顔を合わせようとしなかった。

久しぶりに彩実に視線を向ける晴香に、彩実はなんとも言えないなつかしさを感じていた。

どれだけ嫌がらせをされても、睨まれても、無視されても仕方がない。

理由はどうであれ、彩実が晴香を傷つけたのは事実だ。

それに、晴香を傷つけずにあの男と別れさせる方法はほかにもあったかもしれないと、今なら考えられる。

だから、晴香にどんなことをされても、二度と姉妹として笑い合えなくても我慢しなければとも思ってきた。

今も昔通りの仲がいい姉妹に戻れたわけではないが、晴香に視線を向けられるだけで、うれしい。

そう、本来の晴香の優しさを知っている彩実には、晴香を完全に嫌うことなどできないのだ。

そのとき、それまで黙り込んでいた忍が顔を上げ、心を決めたように口を開いた。

「彩実、もうあのことを晴香さんに話してもいいんじゃないか?」

「え……」

忍の言葉の意味を瞬時に察し、彩実は口ごもった。

彩実とあの男との間に起こった出来事を忍は知っている。

そして、彩実があの男と話をつけると言い出したときに力づくでも止めればよかったと後悔し続けているのだ。

そして今、事実をすべて晴香に話したほうがいいと言っているのだろう。

「このままじゃ、誰にとってもよくない。彩実や晴香さんはもちろん、彩実を誤解している諒太さんにとっても、もちろん俺にとっても」

断固とした声で話す忍に、この場にいる三人の視線が集まった。

「でも、そんなことしたら姉さんが」

晴香にはまだ事実を受け入れる余裕はないと思い、彩実はぶんぶんと首を横に振った。

晴香が彩実への怒りを支えに生きていると思い込んでいる彩実は、晴香が事実をどう受け止めるのがが不安で、まだ伝える自信がない。

けれど、忍は静かな口調で、でもきっぱりと言った。