冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~

諒太は無表情のまま黙り込みまっすぐ彩実を見つめている。

「あ……ごめんなさい。でも、別にこそこそ話していたわけじゃなくて、ただ」

仕事の話をしていただけだが、たしかに忍とふたりでフランス語で話していたとなれば感じが悪い。

もしも諒太が三橋と彩実の知らない言語で話していたら腹が立つはずだ。

彩実はおずおずと諒太の前に立つと「ごめんなさい」と再び謝った。

「あの、諒太さん……?」

黙ったままの諒太に、彩実は不安を覚えた。

また、お色直しの退場のときのように、冷淡な言葉を投げつけて彩実を突き放すのだろうか。

階段から落ちそうになった彩実を間一髪で助けたのは忍だが、その後動揺が収まらない彩実を膝の上で落ち着かせてくれたのは諒太だ。

優しい言葉を口にしたわけではないが、彩実の不安定な心を察して寄り添ってくれた。

それに「こっちに寄越せ」と言って忍から彩実を取りあげた。

強引に、まるで彩実を物のように扱うのはまさに白石家の御曹司。

そんな傲慢ともいえる態度も、彩実はうれしかった。

「また……?」

彩実は切羽詰まった顔でつぶやいた。

再び諒太に突き放されたら、激しく上下する気持ちとどう折り合いをつければいいのかわからない。

「忍君とは付き合いの長いともだ——」

「お待たせしましたー。お水とお茶と果汁百パーセントのジュース。どれがいいですか?」

そのとき、彩実のために飲み物を取りに行っていた飯島が戻ってきた。

「あ、彩実さん立てるようになったんですね。気分はいかがですか?」

飯島は彩実の手を取り諒太の隣に座らせると、手にしていたペットボトルを彩実に差し出した。

「あ、ありがとう」

彩実は諒太が気になり飲み物どころではないのだが、せっかくなので水を手に取った。

「あ……開けられない」