冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~

誤解している飯島に慌てた彩実は忍の腕の中から体を起こした。

「忍君、ありがとう、大丈夫だからおろしてほしいんだけど」

「いや、まだ顔色が悪いぞ。どこかで休憩したほうがよくないか?」

「ううん。そんな時間はなさそうだし、もう落ち着いたから大丈夫」

そう口にしながらも、やはりまだ階段から転げ落ちそうになった動揺は続いていて、彩実の手は少し震えている。

表情も固く、メイクをしているにもかかわらず顔色も悪い。

「おい、こっちに寄越せ」

諒太は彩実を離そうとしない忍にそう言うが早いか彩実の体に両手を差し入れ、あっという間に奪い取った。

「きゃ……」

いきなり諒太の腕に抱き取られ、彩実は慌てて諒太の首にしがみついた。

「おい、いきなり危ないだろう」

忍の冷静ながらも怒りを含んだ声を耳にし、彩実はおろおろする。

「諒太さん、あの、大丈夫です。お、おろしてください」

「じっとしてろ」

諒太は忍にも彩実にも構うことなく歩き出すと、ホールの片隅に並べられている長椅子に腰をおろした。

そして膝の上で横抱きにした彩実の顔を覗き込んだ。

忍と飯島、そして三橋もふたりの周りを取り囲んだ。

「彩実さん、靴を脱いだほうがいいですね」

飯島が膝をつき、彩実の足からそっとハイヒールを脱がせた。

「痛みはありませんか?」

「はい。忍君が助けてくれたから、どこも痛くないし大丈夫です」

彩実は忍に笑顔を向けるが、その笑顔もまだぎこちなく、強張っている。

「いや、普段履きなれないハイヒールにてこずっているようだったし。とにかく間に合ってよかったよ。今もホテルの外にマスコミが大勢いたし、大けがでもしてたらそれこそまたネットが彩実の話題一色になってたな」

彩実の無理矢理作った笑顔に気づいた忍は、場を和ませようと、明るく答えた。