冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~

息はあがっていて、急いで階段を駆け上がってきたとわかる。

階段から落ちそうになった彩実の体を片手で受け止め、もう一方の手で手すりを掴んで支えてくれたようだ。

「忍君……。あ、ありがとう」

「本当に大丈夫か? 足をくじいたりしていないか?」

彩実は忍の体に預けていた体を起こし、慎重に立ってみる。

足だけでなく体のどこにも痛みはなく、ホッとした。

「どこもいたくないし、大丈夫みたい」

「それはよかったけど……。とりあえず、下に降りよう」

忍はくぐもった声でそう言うと、彩実を軽々と横抱きにし、階段を下りていく。

「あ、あの忍君、大丈夫だから。おろして」

「すぐにおろすからじっとしていて」

忍は彩実を抱いたまま階段を降りると、その様子を呆然と見ていた三橋の前に立った。

「彩実を座らせるから、部屋でも用意して」

「え、部屋ですか?」

「そう。体はどこも大丈夫みたいだけど。動揺してるから」

黒い礼服を着て、髪を後ろに流しているせいか、今の忍はとても凛々しい。

そして表情は硬く、声にも怒りが感じられる。

「部屋と言われましてもすぐには……。それに、まだ撮影が残っていて。ケガがなければこのまま中庭に」

「はあ? なにばかなこと言ってるんだよ。もともとは彩実をひとりで階段から降りさせるからだろう? このホテルには新婦に手を貸すとか支えるとか、そういう当然の優しさはないのか」

「し、忍君……」

ホテルの中庭に続くホールに、怒りに満ちた忍の声が響いた。

「それに、彩実に手を貸さないどころか何度も急かしていただろ。まずいと思って、彩実がバランスを崩す前に走り出していてよかったよ。そうでなかったら大けがしていたぞ」

忍の怒りに圧倒された三橋は顔を強張らせ、後ずさった。