冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~

いくらゆっくり歩いても足元はおぼつかなくて、いっそハイヒールを脱いでしまおうかと本気で考える。

けれどその時間すら三橋に怒られそうで、仕方なく足を動かし続けた。

「時間がないって言ってるのに、遅いわね……。お色直しを省けばよかったのに」

三橋は彩実に聞こえるとわかって言っているのだろう。

腹立ちまぎれの言葉に、彩実は顔をしかめた。

お色直しの回数もこの撮影も、すべて諒太が独断で決めたのだ。

文句があるなら諒太に言ってほしいと、彩実はうんざりする。

その諒太は自分の撮影を終えた後、少し離れた場所で電話をしている。

諒太がそばにいないのをを狙って三橋は彩実に嫌な言葉ばかりを投げつけてくるのだ。

三橋は諒太と同期入社の広報宣伝部のエースらしいが、まるで諒太の秘書のようにいつも近くにいる。

三十路を過ぎ、見た目も立場も極上の諒太に、これまで恋人がいなかったとは思わないし、過去に三橋となにかあっても不思議ではない。

けれど、まさか今も三橋とつきあっているのではないかと疑うほどの親しさに、彩実の心はざわざわしている。

「新婦様」

いら立つ三橋の鋭い声に彩実は驚き、その拍子にドレスの裾を踏みつけてしまった。

「きゃあ」

慎重に階段を下りていた足元がぐらつき、大きく体が揺れた。

とっさに手すりを掴もうとするが間に合わず、彩実の体がふわりと浮き上がった。

「彩実っ」

このまま落ちると覚悟し目を閉じたとき、彩実を呼ぶ声とともに階段を駆け上がる慌ただしい足音を聞いた。

まさか諒太が助けに来てくれたのかと思った次の瞬間、彩実は力強い腕に抱きとめられた。

「大丈夫か? どこか痛むところはないか?」

階段の上で抱きとめられた彩実は、間一髪転落を免れ、助かった。

「うん……。大丈夫」

心配気な声に顔を上げると、真っ青な顔の忍と目が合った。