冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~

ぎくしゃくした歩みも、それすら照れているのだろうと思われているようで切なく、向けられるスマホやカメラに笑顔を作る余裕もない。

「ちゃんと笑え」

甘い笑みを顔に貼り付けた諒太が、彩実の耳元にささやいた。

「次期社長夫人の仕事のひとつだろ」

「仕事……」

会場のざわめきの中聞き逃しそうなささやきに、彩実は唇をかみしめた。

お見合いの日に向けられた冷たさは、やはり諒太から消えていなかった。

「ほら、親戚が手を振ってるぞ」

見れば、少し離れたテーブルには、ひときわにぎやかな親戚たち。

ブロンドや明るいブラウンの髪が照明に映えてとても綺麗だ。

それに、女性たちが身に纏っている、ハイブランドでフルオーダーしたという華やかなドレスは、日本ではあまり見かけない色合いで会場内の誰よりも目立っている。

あの場所に、自分も混じりたい。

彩実のそんな思いを察したのか、諒太は腕を引き締め絡ませている彩実の腕を引き寄せた。

「君はもう、白石家の人間だ。どこにも、誰のところにも逃げられないぞ」

冷たい吐息とともにそうささやいた諒太の唇が、彩実の耳元をくすぐった。

今の投げやりな言葉を、どう受け止めればいいのかわからない。

けれど、フランスへの進出を考えている白石ホテルの今後の足がかりとして彩実と結婚すると、諒太は最初から言っていた。

おまけに、晴香が彩実のせいでこれ以上苦しまないために、彩実との結婚を決めたとはっきり言われている。

婚約発表から今日まで、ふたりの距離が大きく縮まったとは思っていないが、彩実の努力次第でこれから仲良くなれるのではないかと期待してもいいような、穏やかな時間を過ごしていたのもたしかだ。

けれど、冷たい瞳を隠すような作り笑みを浮かべ、彩実との距離を取ろうとする諒太の様子をみれば、それは無理かもしれない。