冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~

「それで、姉さんはどうしてお見合いを断ったの? それ以前に、姉さんって一生結婚せずに如月家の財産を使って生きていくってはっきりと言ってなかったっけ?」

晴香の口癖を思い出し、彩実は首をかしげた。

どれだけ遊んで暮らしても影響などない如月家の財産を存分に使って生きていくと、今年も正月の親戚の集まりで堂々と宣言した晴香。

ひととしてどうかと思えるその言葉を強い口調で言い切った晴香に、意見できる者は誰もいなかった。

如月家のトップである賢一の孫である晴香に説教するなど、如月家との断絶を意味する。

父親の直也でさえ、婿養子である立場から晴香と咲也には遠慮しながら生きているくらいだ。

「もしかして、おじいさまに命令されて姉さんをだましてお見合いの席まで無理矢理連れて行ったの?」

そうとしか思えず、彩実は溜息を吐いた。

賢一が直也に無理を強いるのは日常茶飯事だ。

嫌がる晴香をどうにか説得して見合いに連れ出したのだろう。

仕事に就かず、勝手気ままに暮らしている晴香の毎日に賛成しているわけではないが、だからといって無理矢理見合いをさせるのはおかしいと、彩実は直也に厳しい目を向けた。

「いや、違うぞ。俺だって晴香に無理強いさせるつもりはなくてだな。会長に怒鳴られるのは慣れてるから、晴香のために頭を下げて見合いは断ろうと思ったんだ」

彩実の目が疑うように細くなる。

そのとき、麻実子がふたりの会話に割って入ってきた。

「晴香さんは会長からお見合いの話を聞かされたとき、ふたつ返事で承知したのよ。お相手の写真を見ていたから、きっと気に入ったんだろうと思って、当日もなんの心配もなく私たちと会長の四人でお見合いの席に行ったんだけど」

麻実子は困ったように小さく息を吐き、直也と顔を見合わせた。

「え……お見合いの席で、なにかあったの?」