「あやしー、その言い方!」

「教室では言いたくないだけだよ」

この反応……。

マジでいんのか?

いないって勝手にそう思ってたけど、でもそれは直接聞いたわけじゃない。

授業中、モヤモヤして内容が頭に入ってこなかった。

よくよく考えたら葵はどんなものが好きなのかとか、家ではどんな風にすごしてんのかとか、学校以外での葵のことをなにも知らない。

どうしてこんなにもどかしい気持ちになるんだよ。

葵のこと、もっと知りたい。

全部知りたい。

そんな気持ちにさせられる。

「なぁ」

机に肘をつき、無遠慮に葵の横顔に目をやる。

ブレザーからさらりと髪が流れ落ち、葵はとっさにそれを耳にかけた。そしてゆっくりとこっちを振り返る。

まっすぐな目は小動物のようにまん丸くて、澄んでいる。たとえるなら透き通るような海の青。

その目に見つめられたら、俺の心臓はとてつもなく速くなる。

「どうしたの?」

「彼氏いんの?」

「え?」

まん丸な目がさらに大きく見開かれた。

「咲までそんなこと聞くんだ?」

「気になるんだよ」

どうしようもなく。

このままじゃ落ち着かない。

もし、いるって言われたら……確実にヘコむ。