なに、言ってんだ?
「具合いが悪くなったのは病気のせいなの」
葵は淡々と他人事みたいに話した。
だから俺もそれが葵の話だとは思えず、別の誰かの話を聞かされているようだった。
それなのに指先はかすかに震えている。ドクドクと心臓が変な音を立てながら、背中に冷や汗が流れた。
「でもね、大したことないから……気にしないでほしいんだ」
大したことはないって、そんな風に思えるわけないだろ。
だって病気とか、俺らまだ子どもなのに。
病気は年寄りになってからなるもんなんじゃねーの?
「俺にできることは……?」
「え?」
「なんかできることがあったら言え」
「大丈夫だよ、大げさだな。人より少し心臓が悪いだけで、こうやって日常生活も送れてるんだから」
そう言われれば、そうなのかもしれない。
それなのに、胸騒ぎがする。
『私ね……死ぬの』
「そんな深刻な顔しないでよね」
いや、ちがう。
葵が──。
そう言ったときと同じ、泣きそうな顔で笑っているからだ。



