誰かに聞いてほしかったのかもしれない。一度話すと止まらなくなった。

「あのとき逃げてたのは私のお世話係たちから。その日すごくショックなことがあって……くじけそうで、全部が嫌で思わず逃げ出しちゃったんだ。それでたまたまライブハウスに入ったら咲に会ったの」

暗くならないように冗談っぽくてへっと笑うと、咲は神妙な面持ちで私を見た。

「世話係……? すげーな、そんなの本当にいるんだ」

「うちのお父さん、すごく過保護なの。どこにいくにも送迎がなきゃダメだってうるさくて。高校生になってからはちょっとゆるくなったけど、中学のときは友達と遊んだりもできなかったんだ」

「へぇ」

茶化したりバカにしたりすることなく、咲は黙って話を聞いてくれた。

「でもね、あの日咲の歌聴いて、これからもがんばろうって。あと少しだけがんばってみようって」

あの日咲に出会わなかったら、今頃どうなっていたかわからない。

「大げさだろ」

「そんなことないよ。私には希望の光に思えたもん。他の人の心にも響いたはずだよ」