「ば、バカ。勘違いすんなよ。そっちの方が葵らしいっていう意味だからな」

「う、うん……」

好きとか言うからビックリしたけど、特別な感情はないってことだよね……。

心臓に悪いからやめてほしい。

咲の顔を思わずじっと見つめていると、ますます顔を赤くした。

「あんまこっち見んな」

「なんで? まさか、照れてるの?」

「……っ」

まさかの図星だったらしく、思いっきり目をそらされた。

「ちょっと待ってろ」

「え?」

「すぐ戻るから」

そう言い残し、どこかへ走っていく背中を見つめる。戻ってきた咲は、手にペットボトルを持っていた。

「ほら」

ベンチに座ったまま咲の顔を見上げる。

「やる」

「わ、ありがとう。いいの?」

「俺が喉渇いてたんだよ。葵のはついでに買っただけだから」

ついでと言いながらも、私の好きなストレートティーを選んでくれているあたり、咲の優しさを感じてしまう。

そしてそれをうれしいと感じて、ドキドキしてる私は私らしくない。もう、絶対に黒田くんのせいだ。

変なこと……言うから。

「……ありがとう」

咲は満足そうに笑ってから私の隣に座った。

「なんかのんびりしてんな。出会ったときは、まさかこんな日がくるなんて思わなかった」

懐かしむようにフッと咲が笑った。

「そうだね。咲と初めて会った日、私、実は家出したんだよね」