「な、なにどさくさに紛れて近づいてんだよ!」
「そんなんじゃないでしょ、これは事故だよ」
至近距離で目が合い、恥ずかしくてたまらなくなる。
「と、とにかく、わざとじゃないからっ」
ムクッと身体を起こしてゆっくりと立ち上がる。よくわからないドキドキに支配されて、これ以上咲といると落ち着かなくて困る。
「おい、逃げるなよ」
「誰のせいだと思ってんの」
「悪かった」
決まりの悪い表情を浮かべて静かに声を落とす咲。
「あ、謝った。あの咲が」
聞き間違いじゃないよね。
「悪いと思ったら謝るだろ。葵はいちいち失礼だな」
「意外すぎてビックリした」
「おい。そこまで性格悪くないからな、俺は」
「わかってるよ、ちょっと我が強いだけだよね咲は」
「自己中って言いたいのか?」
「ちがうちがう。あはは」
「こんな女、初めてだし」
咲はため息を吐きながらやれやれと言いたげに肩をすくめた。
「そういえば、もう歌わないの?」
「なんだよ、いきなり」
「私、咲の歌声が好きだからさ。また聴きたいなって思って」
「気が向いたらな」
「楽しみにしてる!」
ニコッと笑うと、今度は咲がそっぽを向いてしまった。



