ほとんど話したことのない早瀬さんと、今こうして向かい合っているのが不思議でたまらない。

「なんだかごめんね。ありがとう、助かったよ」

「神楽さんって本当にお嬢様なんだね。ああいう黒服の人って実際にいるんだ」

「え、あはは、まぁね」

「ふふっ、恋バナって聞いてめちゃくちゃ動揺してたね。面白かったなぁ」

思っていたよりも表情豊かな早瀬さんは、口元を手で覆いながらクスクス笑っている。

「平木はもともとああいうヤツだよ」

「神楽さんのこと大事に思ってるんだね。娘を思う父の顔になってたよ」

「やーめーてー、そんなんじゃないから」

「ふふっ」

「早瀬さんって、もっととっつきにくいイメージだったんだけどなぁ」

「よく言われる〜! 私、同性から嫌われやすいタイプなんだよね」

「そうなの?」

思いもよらないところでの早瀬さんとの会話はなんだかとても楽しくて、さらにはパンケーキもすごく美味しくて、一時間もしないうちに私たちはすっかり打ち解けていた。

「神楽さんって清楚なお嬢様だと思ってたけど、案外普通の子なんだね」

「あはは、まぁねー。桜花女学院でも、言葉遣いとか態度とか注意されまくりだったよ。ザお嬢様です! って環境が私には合わなかったんだ」

「あはは、たしかにお嬢様っぽくない!」

「ちょっと!」

楽しくてつい笑いがこみ上げた。

こんなに楽しい時間をすごしたのは久しぶりかもしれない。

「あたしのことは花菜(かな)でいいよ」

「じゃあ私も葵って呼んでね」

花菜とはこの日、お互い下の名前で呼び合う仲になった。