ずっと一緒にいられる未来だけを見れたらよかった。少しでも可能性があるのなら、アメリカへいこう。

もう迷わない。

たとえ寿命が尽きたとしても、このままなにもせずに朽ちていくのだけは嫌だ。

希望があるなら、それにかけてみたい。

だけど咲を縛りつけたままでいるのは嫌だから──。

「咲、ひとつお願いがあるの……聞いてくれる?」

とことん悪者にだってなってみせる。

「ん? どうした?」

「私たち、もう終わりにしよう」

一瞬にして張り詰めた空気に変わった。

声、震えてなかったよね……?

最後までちゃんと言うんだ。言葉が喉の奥につっかえて出てこない。

その代わりに漏れそうになる涙と嗚咽を必死にこらえた。

「もうね、別れ……たいの」

今は泣くな。

「なんで……? なんで、いきなりそうなるんだよ」

「ごめん……」

それしか言えない。

「ごめんって、ちゃんと言ってくんなきゃわかんねーよ……」

「別れたい」

「俺のこと、好きじゃないとか?」

ちがう。大好き。でも、言えない。言っちゃダメ。

「うん……」

「いや、ウソだろ。なんでそんなこと言うんだよ」

「ホントだよ……もう、好きじゃ、ない」

こらえた涙が頬に落ちた。

うつむきながら、唇を噛みしめる。

ポンポンと咲の手のひらが頭に乗せられて、優しく撫でてくれた。

優しくしないで。そんなことされたら、余計に決心が鈍りそうだよ。

静かな空間に私の鼻をすする音だけが響く。

結局泣いちゃった。私のバカ。説得力なさすぎ。どうすんの。

しばらくしてから、咲が無言で立ち上がった。

「俺は別れないからな。じゃあ、また明日」

そう言い残し、咲は病室を出ていった。