「葵?」

「さ、く?」

「ああ、俺だ。よかった目が覚めて」

右手に触れてるのは恐らく咲の手だ。その手が小刻みに震えている。

まだはっきりとしない視界の中に弱々しい咲の顔が映った。

「平気か?」

「うん、もう、大丈夫。ここ、は?」

「保健室。ブレザーのポケットに薬入ってたから、無理やり飲ませた」

そっか、私、倒れたんだ。情けないな……。咲の前で倒れるなんて、最低……。

「ごめん、ね。咲……」

迷惑かけちゃった。

「謝る必要ない。葵が無事ならそれでいいから」

「うん……」

そのたびに咲にこんな顔をさせることになるのかな。

いつまで無事でいられるんだろう。ひどくなれば意識が戻らなくて、そのまま……。

そう考えたら怖くて身体が震える。

「こんなこと、前にもあったよね……去年の体育祭のときだったかな」

「え、ああ……」

「咲はいつも私を助けてくれる。ヒーローみたいだね」

「ヒーローって、そんないいもんじゃねーよ……」

「ごめんね……」

何度言っても足りない。きっとこの先も、そんな日々の積み重ね。

「だから謝るなっつの。葵はなんも悪いことしてないだろ」

「でも」

「それ以上言ったら、キスで唇塞ぐからな」

スッと顔が近づいてきて、咲の唇が目の前に迫ってきた。

「な、なに言ってんの、バカ」

「じゃあもう謝るな」

そう言われてなにも言い返せなくなった。